岡山後楽園は岡山県岡山市にある特別名勝の日本庭園。江戸時代中期に岡山藩主池田綱政の命によって作庭された大名庭園で、藩主の静養や接待の場として使われていたほか、藩内の領民にも開放することもあったとされています。
日本の庭園としては珍しく、芝生の面積が多い、明るく開放感のある庭園となっています。
庭園は、周囲を旭川に囲まれた島のような場所にあり、各方面から橋を渡ってアクセスします。
路線バス停留所や駐車場が近い正門のほか、岡山城と隣接している南門からも入園できます。
特に順路はないので、ここでは正門から入り、反時計回りで主な見どころを紹介します。
正門から入って少し進むと、一気に視界が広がります。
芝生が多い、明るく開放感のある岡山後楽園の特徴を、すぐに体感できると思います。
実は、築庭当時はこれらの大半が田畑で農村風景を楽しんだといわれています。芝生と田畑の違いはありますが、明るく広々とした庭園のコンセプトは受け継がれています。
藩主が庭園を訪れた際に居間として使われていた建物。園内外の景色が一望できる場所に建てられています。戦災で焼失し、現在の建物は1960年(昭和35年)に復元されたものです。
手前にある、流れのある庭も見所。
灯籠と曲水、背景の樹木がバランス良く配置されている見所。延養亭の目の前にあります。
ポスターやパンフレットの写真によく使われている美しい風景です。
能を好んだ藩主の綱政は、自らも能を舞って家臣や領民に披露したとされています。能舞台は普段は閉まっていて見えませんが、イベント時に開放されたり、実際に能楽を鑑賞することもできます。
こちらの建物も延養亭と同様、戦災で焼失し、のちに復元されたものです。
曲水の流れが滝となって落ちる花葉の池。夏にはハス、晩秋には紅葉が楽しめます。
花葉の池に架かる栄唱橋の側にはシダレザクラがあり、春に美しく咲きます。
開花最盛期はソメイヨシノと同じかやや遅いくらいです。
栄唱橋の奥には、巨石を九十数個に割って組み立てたという立派な大立石がみられます。
数少ない戦災をまぬがれた建物で、園内にある亭舎の中で綱政が最も好んだとされています。
建物内部からは、手前の池越しに園内の美しい景色がみられるとのことですが、基本的には建物側に入ることはできません。
池田綱政の子、継政が作らせた約6mの築山。高低差の少なかった園内に変化をもたらしました。
山の斜面にサツキが咲く5月下旬〜6月上旬頃が一番の見頃となります。
唯心山を上れば、頂上から園内を見渡せます。季節ごとに移り替わる風景を観賞しましょう。
中央に水路を配した、全国でも珍しい構造の建物。築庭当時の床は畳張りで、藩主の休憩に使われていたとのことです。現在は庭園の点景としての役割が主なっています。
6月上旬ごろになると、手前にある花菖蒲園にハナショウブが咲きます。
園の南側は樹木が多く、落ち着いた雰囲気の施設が多いです。
写真は紅葉時の花交の池と、池の近くにある茶室の茶祖堂。
春にソメイヨシノが咲く林。まとまって咲いているので量感があります。
桜林近くには、早春にウメの花がみられる梅林もあります。
築庭当時から名がついていたという、約100本のモミジがあるという歴史ある楓林。
こちらも、まとまって植栽されているので量感があります。新緑や紅葉の時期は美しいです。
庭園は岡山城に隣接していますが、園内から岡山城がはっきり眺められる場所は限られています。
写真の千入の森手前の芝生広場もその一つです。
他には、五十三次腰掛茶屋付近や慈眼堂、奥の休憩広場などがあります。
かつて芝生の代わりに広がっていた田畑の名残で、現在も、もち米が作付けされています。
その一角にはハス畑もあり、6月下旬から7月にかけてハスの花がみられます。
ハスの花は早朝から咲き昼前には萎むので、訪れる時間帯は考慮しましょう。
綺麗に刈り込まれた立派な茶畑。実際に藩主が飲むお茶として収穫していたそうです。
伸びやかな景色を形作る一助となっています。
綱政が、池田家の安泰と藩内の平安を願って建立した観音堂。
門をくぐって階段を上ると、池越しの唯心山と岡山城が眺められます。
園内中央にある一番大きな池で、配置された3つの島には、釣殿や白砂青松などがみられます。
また、慈眼堂前の広場では、エサを欲しがるコイがたくさんみられます。
腰掛があり休憩舎となっている建物で、東海道五十三次の扇額があったことからその名がついたとされています。
茶屋内から連子窓越しに見る景色も良いのですが、茶屋横にある見晴らしからの方が、池越しの唯心山と岡山城をはっきりと眺められます。
江戸時代から、吉を呼ぶものとして庭園で鶴が飼育されていました。しかし、戦災は生き延びたものの戦後に絶滅してしまいました。なお、戦前までは庭園内に放し飼いにされていたとのことです。
その後、中国からタンチョウ2羽を譲り受け、釧路市の協力もあって繁殖に成功し、今にいたります。
鶴は普段、檻の中で飼われていますが、イベント時に園内に放たれることがあります。
庭園は藩主の憩いの場としてだけでなく、武芸の鍛錬の場としても使われていました。
細長く伸びた馬場では家臣の武芸披露の行事が行われ、藩主が歓騎亭からご覧になったとのことです。
春にはサクラ、秋には紅葉が楽しめます。
春・夏・秋の期間限定で夜間にライトアップが行われていることがあります。
「幻想」と銘打っている通り、普段は見られない夢のような庭園の景色を観賞できます。
開催時期は公式サイトやSNS等で確認ください。
各所に売店や茶屋があり、園内の景色を見ながら抹茶などの飲食が楽しめます。
営業時間が短かったりする店もあるので事前に確認しましょう。
南門から出て月見橋を渡れば、岡山城を見学できます。
特に初めての訪問であれば、庭園とセットで観賞時間を考えておくとよいでしょう。庭園は再入園が可能なので、南門から出ても正門側に戻ってくることが可能です。
庭園と岡山城との共通入園券も販売されています。
旭川の河川敷には春になるとソメイヨシノが咲き、大勢の花見客でにぎわいます。
また、開花期に合わせてイベントも開かれ多数の屋台が並び、ライトアップも行われます。
場所
岡山県岡山市北区後楽園1−5
交通手段
■公共交通機関
JR「岡山」駅から路線バス「後楽園前」下車、徒歩2分。
JR「岡山」駅から路面電車で「城下」下車、徒歩10分。
JR「岡山」駅から徒歩25分。
JR「西川原・就実」駅から徒歩20分。
※岡山駅と後楽園を結ぶ便利な直通バスは現在休止中となっています。路線バスを利用するか、路面電車を利用しましょう。
■車
山陽自動車道「岡山IC」から約20分。
駐車場あり(有料)
入場料・休館日・開園時間は下記URLを参照
URL:https://okayama-korakuen.jp/
庭園デザイン:★★★★
日本庭園としては珍しい、広い芝生部分が多い明るく開放感のある庭園となっています。茨城県の偕楽園や、東京都の浜離宮恩賜庭園などにも広い芝生部分がありますが、こちらはさらに伸びやかな風景が楽しめます。このような庭園となったのは、藩主の憩いを目的としたという造園の歴史や、晴れの日が多い岡山の気候が影響しているのかもしれません。
一方で、日本庭園らしい繊細な部分は少なめとなっています。
また、庭園は岡山の中心街から近い市街地にありますが、周囲が旭川に囲まれており、余計な建物が見えにくいのは良いところです。
植物充実度:★★★
日本庭園によくみられる植物が多いです。マツを中心に、ウメやサクラ、ツツジ、ハナショウブ、ハスのほか、モミジも多く新緑や紅葉の時期はとても美しいです。
中でも注目は初夏に咲くサツキで、唯心山を中心に各所で花がみられます。
植物の管理状態は良好で、特に芝生の管理状態の良さには目を見張るものがあります。
娯楽度:★★★★
サクラや紅葉の最盛期は庭園や花に興味がない方でも楽しめます。サツキをはじめとした各種花の季節も良いでしょう。それ以外の季節はゆったり散策するのに向いています。
花の見ごろ以外にも、様々なイベントが行われています。ライトアップやタンチョウの園内散策、名月観賞会、芝焼きなどです。特に2月に行われる芝焼きは他では見られない特異なイベントなので、気になる方はチェックしてみてください。
周辺観光なら、隣接する岡山城は外せません。他にも正門向かいにある岡山県立博物館のほか、林原美術館、夢二郷土美術館本館、岡山県立美術館など徒歩圏には興味深い施設がいくつもあります。
花めぐりがしたいなら岡山市半田山植物園や、バラの時期限定でRSKバラ園もおすすめ。岡山駅からバスが出ています。バスの本数が少ないので事前に確認を。
混雑度:★★★
サクラや紅葉の季節はとても混雑します。サクラや紅葉の最盛期にゆっくり観賞したいなら、平日に訪問するなど工夫しましょう。それ以外の季節は酷く混雑することは少ないです。
施設内は広く、オープンスペースも多いです。混雑時でも落ち着ける場所はあるでしょう。
交通の便:★★★★
公共交通機関利用の場合、岡山駅から何とか歩ける距離で、路線バスや路面電車の便もあるので問題は少ないです。ただ、以前あった直通のバスの便は休止したままで、非常に良かったころと比べると、有名な観光地としては物足りなさがあります。
車の場合、専用の駐車場があり、通常は困らないでしょう。一方で、サクラ最盛期や行楽シーズンは非常に混雑するので、その時期は公共交通機関の利用を推奨します。
総合満足度:★★★★
芝が占める面積が広い、明るく開放感のある伸び伸びとした日本庭園。一方で、繊細で落ち着いた景色を望む場合はあまり適していません。個人的には静けさを感じさせる、落ち着いた景色の方が好みのためこの評価ですが、明るく開放感のある景色が好きであれば十分満足できるでしょう。
東京の庭園で例えるなら、浜離宮恩賜庭園と小石川後楽園の比較で考えるとよいかもしれません。
また、戦災により多くのものが失われたにもかかわらず、全体的に良く復元されている点は好印象。
備考1:総合満足度の星減にも影響を与えているのですが、イベント時以外は大部分の建物の雨戸が閉まったままなのが気になります。参考に、廉池軒と中の島にある島茶屋の雨戸が開いていたときの写真を載せておきます。上記で載せた廉池軒の写真と見比べてみてください。
気まぐれなのでは…と思うほど、開いている時と開いてない時に差があるのも気になります。観光客にとっては一期一会であることを考慮してほしいです。
なお、コロナ過以前は、平日やイベントが無い時でも、その他の建物も含め、9時頃には雨戸が開いていることがほとんどだったと記憶しています。
備考2:時期により多少時間が変わりますが、比較的朝早くから開園してくれています。混雑を避けて静かに庭園を楽しみたい向きにはありがたいです。
なお、朝早くは備考1で触れた雨戸が閉まっていることが多く、売店や茶屋も開いていません。
備考3:園内の敷地は、唯心山や二色が岡周辺などを除けばほぼ平坦で、バリアフリー的には問題の少ない施設となっています。
遠方から訪れる場合のお勧めの季節
春(サクラ)
初夏(新緑、ツツジ)
5月下旬〜6月上旬(サツキ)
6月上旬(ハナショウブ)
6月下旬〜7月上旬(ハス)
晩秋〜初冬(紅葉)